5月19日放送された大河ドラマ「いだてん」第19話、サブタイトルはズバリ「箱根駅伝」。主人公・金栗四三(演:中村勘九郎)が突然思い立ったアメリカ横断駅伝というとつけむにゃあ(熊本弁で「とんでもない」)企画の予選会として考えたのが、第1回箱根駅伝の発端だったとは驚きでした。
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その第1回箱根駅伝が開催されたのは今から99年前の1920年2月14日。今回はこの一部始終を衝撃の演出で描いていきました。

まず注目すべきは、レースの実況。ドラマの案内役でもあるビートたけし演じる古今亭志ん生と、弟子の五りん(演:神木隆之介)、その兄弟子の今松(演:荒川良々)によるリレーならぬ駅伝形式で始まったのですが、行き当たりばったりの思いつきだったという設定もあり、早々にグダグダ状態に陥ってしまいます。このへんは、実際の第1回箱根駅伝のドタバタ感を暗示していたようにも見えました。

で、“落語駅伝”の真骨頂はここから。志ん生ら3人によるリレーはたちまち人手不足となり一同困り果てたところに登場したのは、森山未來が演じる“ある男”。

森山未來といえば、このドラマで明治〜大正期の若き日の古今亭志ん生を演じているのはご存知の通り。先々週、無銭飲食でブタ箱に放り込まれてから一念発起してだらしない長髪をバッサリと散切り頭にチェンジしたのちの志ん生、美濃部孝蔵ですが、それとは全くイメージが違う“ある男”の正体は、志ん生の長男・金原亭馬生でした。
孝蔵青年とは違い、落ち着いた大人の芸筋で駅伝の様子を淡々と、要領よく笑いを取っていく馬生の話し方は、往年の馬生の特徴を細かく捉えていたようです。私は実際の馬生の落語の記憶はないのですが、いかにも名人の雰囲気が漂っていました。

そして、馬生が高座で喋っている最中、楽屋には“もうひとりの森山未來”が入ってきた!こちらは、志ん生の次男、古今亭朝太。のちの古今亭志ん朝。志ん朝については私もよく覚えています。ふりかけの「錦松梅」のCMなんかに出ていましたし、この落語駅伝の時代、昭和36年頃には立川談志や林家三平とともにラジオやテレビで人気ものになっていましたからね。
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で、この志ん朝の演じ方も絶妙の一言。志ん朝独特の色気も、見事に完パケしていました。志ん生が狂言回しを務めるからには、いずれ志ん朝も出てくるだろうと期待はしていましたが、こんな形で登場するとは。

 

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しかも、この回の演出を担当した大根仁さんによると、「最初はキャスト案も上がっておらず、ここでいきなり初登場の役者が出てきたり、本職の落語家にやってもらったりしたら、視聴者の意識が途切れて、この回の大きな軸である『箱根駅伝』=『タスキ』がつながらなくなってしまうなぁ」と思案。した。ならば森山未來に演じてもらうのはどうだろう?孝蔵が若き志ん生ということは、志ん生の息子として顔が似ているのは当然。そういえば森山未來が『たけしさんと共演するシーンがないのが寂しい』と言っていたことも思い出し、ならばいっそ馬生と朝太の両方を演じてもらえば…行ける!!」となったそう。いやあ、たまたまこの回に孝蔵の登場を当てなかったクドカンも思い切ったなと思いますが、ならばとそれをこのように活用するとは、これもひとつの駅伝と言えるのかもしれません。

このドラマの落語監修を担当している古今亭菊之丞さんによると「未來くんには、ふたりの個性が出るように、馬生はおっとり、朝太はトントンとやって下さいとお願いしました」とのこと。

神演出と、神演技が折り重なり、全く予期せぬドラマと出会えた、実に充実した45分でした。

と、この回はもう一つ、岩松了さん演じる日本体育協会会長・岸清一の表情の変遷もチェックポイントでした。役所広司演じる嘉納治五郎のやり方を冷ややかな目で見ていた彼が、箱根駅伝のレースが進んでいくに連れて段々前のめりになり、最後の最後には、ゴール直前で転倒してしまった明治大学の選手のもとに駆け寄り、懸命に声援を送る一人の熱きスポーツファンと化していました。

スポーツは勝利者だけのためのものではない。そんなこのドラマのメッセージを体現する計算しつくされた演出には脱帽の一言でした。